●レスリー・チャン映画 知られざる52の秘密 内幕篇 その3

8、レスリーが《記得…香蕉成熟時2》に無報酬でゲスト出演した理由

レスリーは、無報酬で《記得…香蕉成熟時2》にゲスト出演したのは、素質のある新人と共演するためだと言った。つまりこの作品に登場する鄧一君である。当時レスリーは“双古一鄧=2人の古、1人の鄧”の3人の新人を有望と見ていた。“2人の古”とはルイス・クー(古天楽)とレオ・クー(古巨基)、鄧は鄧一君だ。ルイス・クーは映画界での地位を着々と高めており、レオ・クーは楽壇で意気軒昂だった。ただ鄧一君だけが、自分で実験的な映画を撮ったり、保険をやったり、会社をやってみたりと影が薄かった。そしてこれは言っておくべきだろうが、鄧一君がレスリーと共演したのは、94年の《記得…香蕉成熟時2》が初めてではなく、91年の《狼たちの絆》である。鄧一君はチョウ・ユンファの少年時代を演じており、つまりはレスリーの哥哥だったのだ。

作品中、レスリーは“レスリー・チャン”自身を演じている。(《97家有囍事》でも自分自身を演じた)。劇中の作品はダニー・チャンと相容れず代役を使った《聖誕快楽》だった。また劇中、波仔を演じる鄧一君が、レスリーに《男たちの挽歌》に出演するよう勧めている。

数年後、ミシェル・ヨー(楊紫瓊)がレスリーの為ならと無報酬で《星月童話》にゲスト出演した。3日間の撮影だったが、レスリーがゲスト出演した時と同様、それを宣伝に利用しない事が条件だった。

9、レイ・チーホン(李子雄)を殺すのは誰か?《男たちの挽歌》にあり得た2つの結末

《男たちの挽歌》の最後はこれ以上ないクライマックスで、ここまで来たら、もうレイ・チーホンは必ず撃たれるべきという所まで高まっている。しかし誰がレイ・チーホンを殺すかが問題になった。ジョン・ウーはこの問題に突き当たったが、レスリーに撃たせるか、ティ・ロンに殺させるか決断しなかった。そこで役になりきっていたレスリーとティ・ロンが激論を戦わせ、それぞれ言い分もあったが、原点はやはり映画のためである。最終的にティ・ロンが優勢になり、銃をレスリーが渡して、その後顔を背けることになった・・・。

10、《錦繍前程(レスリー・チャンの恋はあせらず)》の成り立ちと、主役の名前について

《風塵三侠》の頃から、ピーター・チャンらはレスリーと合作したいと考えていた。そのためレスリーとマギー・チャンのために、《等着你回来》を書き上げた。しかしなかなかその機会に恵まれず、ジェイコブ・チャンがこの脚本で撮りたいと言うと、何と譲ってしまった。ジェイコブ・チャンはUFOの看板俳優のトニー・レオンにン・シンリン(呉倩蓮)を合わせて撮った。《等着你回来》の主役のトニー・レオンへの投資は、UFOが《風塵三侠》での借りを返したものだ。

エリック・ツァンとピーター・チャンのUFOの願いが叶い、レスリーと契約した時には、《風塵三侠》も《等着你回来》もすでに制作されていた。そこで新たに《金枝玉葉》を書き下ろした。

93年リー・チーガイ(李志毅)とピーター・チャンが撮影した《風塵三侠》は、ゴードン・チャン(陳嘉上)が書いた脚本の“女を引っ掛ける”部分を抜き出して、同名の映画にしたものだった。残りの部分を没にするのは惜しいと考えたゴードン・チャンは、主役に目論んでいたレスリーを起用して、《錦繍前程》を撮った。3人の男の友情と愛情の物語で、レスリー、レオン・カーファイ、ウォン・ジーワー(黄子華)が主演し、見ごたえある作品だ。

そして役の名前がまた面白い。レスリーは林超栄、レオン・カーファイは阮世生、主演女優は張小嫻。全て香港の名脚本家であり、ゴードン・チャンと親しい人ばかりで、監督がちょっと借用したのだろう。

《ブエノスアイレス》で、アシスタント・カメラマンの名前ライ・ユウファイ(黎耀輝)とホー・ボウウィン(何寶榮)を主役の名前にしたのも似たような事だ。

11、《鎗王(ダブルタップ)》のタイトルと、ストーリーの誕生

*撮影前、張民光がレスリーに銃の基本知識を教える。

《ダブル・タップ》はレスリーとイー・トンシンの《色情男女》以来、再度の合作だ。イー・トンシンは「主役の2人は、どちらもレスリーに演じてもらいたいが」と、レスリーに一人を選ばせた。レスリーは良い人は散々演じてきたし挑戦したいと考え、イー・トンシンに「考えるまでもない。絶対に偏執狂の役をやる」と言った。

当初この作品には《Double Tap》という英語名しかなかった。射撃用語で、続けて2発発射し、3.3㌢以内の場所に“8”の字を作ることを“Double Tap”という。これが出来れば殺傷能力が大幅に増加するため、FBIなどの特殊部隊では必ず相手に、2発発射するそうだ。

《Double Tap》のアイデアは、撮影で銃の技術指導を務め、香港射撃チャンピオンに2度輝いた張民光のものだ。彼の経験とは「長年射撃をやっていると、紙の的を撃つのに飽きてきます。そして実際人に向かった時、自分は撃てるかどうか?と考えるようになります。・・・例えば路上で暴徒に出くわし、警察が撃ち損ねた場合、自分は手を貸すだろうか?と。これは私が実際に経験した事で、イー・トンシンに話しました。それが《Double Tap》の始まりでした」

12、何故《三文治》を撮ったか?レスリーの役の英語名は、何故Eddieなのか?

《三文治》はもちろんグルメ映画ではない。翁維銓が資料集めに数ヶ月を費やし“板ばさみ世代の若者の心情を描いた”作品で、レスリーはゲスト出演した。以前香港で暴動が起こり、若者たちがあちこちで行動を起こしたことがあった。(訳註:1967年香港暴動) 翁維銓監督は触発され、この状況を描く作品を撮ろうと決めた。物語はここから来ているが、正面からは描いていない。

レスリーの役の英文名がEddieというのは、親友・劉培基が出資者の一人であり、劉の英文名がまさにEddieだからだそうだ。

13、《縦横四海(狼たちの絆)》では何故チョウ・ユンファが“阿租(ジョー)”、レスリーが“阿占(ジム)”と呼ばれるか?

ジョン・ウーは、大いにフランス映画の影響を受けている。《縦横四海》のインスピレーションも、同名のフランス映画(訳註:邦題「冒険者たち」)から得ている。またトリュフォーの《祖與占(突然炎のごとく)》(中国では《朱尓與吉姆》)に敬意を表すため、チョウ・ユンファはジョー、レスリーはジムになった。

― 内幕篇 完 ―

 
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