●レスリー・チャン映画 知られざる52の秘密 花絮篇(こぼれ話篇)その3

10、《欲望の翼》の編集エピソード

《欲望の翼》の撮影中、ウィリアム・チョンが一部を編集して見せたが、ウォン・カーワイは何か違うと言い、師であり友であるパトリック・タムを呼んだ。パトリック・タムの作品は多くないが、その作風は多くの香港映画人に影響を与えており、ウィリアム・チョンとウォン・カーワイもそうだ。パトリック・タムの編集は情に引きずられることがなく、もちろん他人の作品であっても情にほだされることはないだろう。《烈火青春》のくだらない結末は、投資者の圧力に耐え切れなかった為で彼の手腕ではない。ウォン・カーワイの《欲望の翼》では、パトリック・タムは自在に腕を振るった。芸能界で名を成したがネズミが大嫌いなアンディ・ラウ。彼がネズミが駆け回る場所で、捨て身で何日も撮ったシーンも、パトリック・タムは切り捨てた。トニー・レオンが九龍城に迷い込むシーンも削除された。レスリーがフィリピン人の男を殴るシーンは、ウォン・カーワイはスローモーションにしていたが、それを聞き《今すぐ抱きしめたい》と重複すると言い、見もせずにカットをアドバイスした。

救いなのは、パトリック・タムが心底納得できる作品を製作したことで、そうでなければこんな浪費は激しく非難されないとも限らない。

11、《白髪魔女2》 一見変化はないが、その実、内容がすり変わっている

文章は注意して読まなければ、簡単に騙されてしまう。“健刀宝”“太白兔奶糖”“紅午”“哇哈哈”…(訳註:全て中国の有名食品ブランドのもじり。正しくは“健力寶”“大白兔奶糖”“紅牛”“娃哈哈”)偽物をうかつに買ってしまうのは、十分注意していないためだ。映画界にも時には、この様な製品がある。

レスリーとブリジット・リンの《白髪魔女傳》は好評を博し、レイモンド・ウォンは続編を撮ってもう一儲けしようと考えた。名目上はやはり元々のスタッフで、実際は中身をすり替えてサニー・チャン(陳錦鴻)らが主役だった。

良く気をつければ、タイトルも密かに変わっており、“傳”の字がなくなり《白髪魔女2》になっている。ストーリーは全て監督が書いた物で、原作とは全く関係がない。こうする事でレイモンド・ウォンの東方公司は原作者の梁羽生に版権料を払わなくても良いだけでなく、鉄は熱いうちに打てで、続編の名前で上映した。

これはツイ・ハークが《新龍門客桟(ドラゴン・イン)》でキン・フー(胡金銓)の《龍門客桟(残酷ドラゴン!血闘竜門の宿)》の版権料を免れるために、題名に一字を加え、堂々と上映したのに似ている。しかしキン・フーの弟子たちから非難を浴びる事になった。

12、誰が何寶榮?誰が黎耀輝?

カットされたが、レスリーがトニー・レオンの部屋にいる女性Mrs. Siuに「どうしてここに居るんだ。何寶榮は?」と尋ねるシーンがある。

何寶榮と黎耀輝が《ブエノスアイレス》のカメラマンの名前ということは良く知られている。もちろん言いたいのは、この2人ではない。レスリーが何寶榮を演じ、トニー・レオンは黎耀輝でこれは疑いがない。しかし作品にはからくりがあって、実はレスリーが演じた人物の名は黎耀輝で、トニー・レオンこそが何寶榮なのだ。観客がそれを知らないのは、間のシーンが編集されたからだ。

作品で、トニー・レオンがパスポートを返さない場面は印象深い。そのためにレスリーは大騒ぎするが、しかしパスポートを返さない本当の理由は、観客にははっきり分からないだろう。実は意図あって、トニー・レオンがその理由を独白している。カットされてしまったが。「自分がなんと言う名前か覚えているか?黎耀輝だ。何寶榮という名前は俺だ。何故パスポートを返さないか分かるか?おまえの名前と永遠に一緒にいるためだ。俺の名前を使わなくても構わない。しかし何寶榮という3文字は忘れないだろう・・・」
(註:しかしこのモノローグと、正式版の2人のパスポートとは矛盾がある。)

13、《覇王別姫》と鄧小平

1993年7月、《覇王別姫》は上海大光明電影院でプレミアショーが決まった。しかし「宣伝も、報道もしない」事を求められ、北京、上海など数箇所で上映されたのみだった。いざ作品が盛大に各都市で上映されようという時、また放映禁止命令が下り、セリフを変えるように言われた。(最後のシーンで、チョン・フォンイー(張豊毅)演じる段小樓が「蝶衣」と叫ぶのを「虞姫」と言うように、と。)北影は各種の祝賀イベントを即刻中止した・・・。

作品が一度この様に判定されてしまうと、出口はないかと思われたが、事態は一変した。鄧小平の家族が鄧小平自身にこの作品を見せ、鄧小平が良いと上映を許可したとも言われている。しかし作品の余波が予想以上に大きく、また上映禁止となったが、その最終決定を下したのも鄧小平だった。

この事については、もうあれこれ言う事もない。しかしこれだけは言わなければ。

祝 張國榮、52歳快楽

― 完 ―

 
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